14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

 7月27日 皇子山球場 天気快晴  午前9時、球場には観客が入り始めている。お目当ては第2試合に登板するであろう遠江高校の注目投手、大野かと思われた。だが、それにしては入りが多い。 「甲賀、むっちゃおもろい野球すんねんて」 「三番、片手でホームラン打つらしいで」 「チビやけど、ばり飛ぶやつもおるんやて」  観客の目当てはまさかの甲賀ナインであった。  実は昨夜、『甲子園へかける橋』という番組で甲賀高校が取り上げられていたのだった。たった10人での準決勝進出はマスコミにとって格好の材料だった。しかも個性豊かな集団で、テレビ的にも映える。まさかほとんどが忍者(しかも一人は女子)とは誰も思っていないが……。 「すげえ、俺たち有名になってんやん」  フェンスから老若男女が甲賀ナインを覗いているのを見て、皆が浮かれていた。キャッチボールやストレッチもせずに観客席を見回してしまう。  その背中へ一筋の細い風が流れた。ほんの一瞬の風が通り抜けると、チンッという小さな金属音が鳴る。皆が振り向くと、桐葉が刀を脇に収めていた。良く見ると、ユニフォームの背中が薄く2ミリほど斬られている。 「忍たる者、見物されるなど死と等し。恥と知るべし」  これ以上、浮かれると本当に斬られるかもしれない。すごすごと皆がベンチへ戻った。 「ねえねえ、今あの子、刀持ってなかった?」  観客の言葉に副島がひきつっている。ここまできて、銃刀法違反はまずい。静かに怒れる桐葉もベンチへ追いやり、副島は観客席へ無理矢理な笑みを送った。
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