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準々決勝とは明らかにスタンドやグラウンドの端から覗くカメラの数が違う。スタンドには甲賀の個性的な野球を観に来たライト層と、ここ数年準優勝が続き、悲願に燃える滋賀学院を観ようというディープ層の観客に分かれている。
「滋賀学院、今年こそは甲子園行けよー!」
そんな観客の声を合図として、ブラスバンドが鳴った。さすが甲子園の常連校である。まだ試合前の練習程度で鳴らしているが、一気に皇子山球場が派手な舞台へ変貌する。
と、プラスチックをかんかんと鳴らす音が反対側から響いてきた。
「副島ぁ、打てよー」
「応援来たったぞー」
甲賀ナインが見上げると、そこにはサッカー部やラグビー部、ハンドボール部などの面々が並んでいた。一般の生徒もたくさんいるようだ。少し不気味な黒いメガホンが揺れている。
「……信じられへん」
副島がぽつりとそう呟いた。その小さな声を拾った滝音が準備をしながら、訊ねる。
「何がだ?」
見上げた副島の目が少し潤んでいるように見えた。滝音はその目を見て、副島の答えを聞くのは野暮だと思った。
「なに感傷に浸ってんだ。まだ予選の準決勝だろ。甲子園で優勝すんだろ? 天国の兄貴に報告すんだろ? 手助けになってやるから、まだ浸ってる場合じゃないぞ」
「……せやな。あかんな」
副島が照れたように鼻を啜る。
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