14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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「じゃあ、百歩譲って、藤田くんを打線に入れるなら、ぜっっったいに三番だと思う。四番を桐葉くんにして、点を取れる確率を上げるべきだわ」  珍しく興奮気味に伊香保が提案した。伊香保はメンバーを組み替え、滋賀学院のエース川原から点を取れるシミュレーションを夜通し行っていたのだ。  犬走→月掛→桐葉→道河原の並びでは、9イニングで点を取れる確率が14%。これを犬走→月掛→藤田→桐葉と並び変えると28%にまで跳ね上がる。故に桔梗を外して藤田を使うのは賛成だが、はっきり言うと道河原を要らないと伊香保は思っていた。 「……いや、これでいく」  信じられないというように伊香保が首を振る。 「わたしは道河原くんをベンチに置いて、東雲さんを入れる方が良いくらいに思ってる。四番はもうあり得ないわ。桐葉くんの出塁率が台無しになってる……」  副島は腕を組んだまま頑なに首を縦に振らない。そのままゆっくり首を横に振りながら、伊香保に応える。 「過去は、過去や。お前が必死こいて集めたデータを否定するわけちゃうぞ? お前の過去からのデータ分析はほんまに助かっとる。ただな、男ってのは、やるときはやるんや。白烏と道河原はこれから必ず男を上げよる。見とったってくれ。俺が保証する」  伊香保は歯を鳴らしそうになりながら、我慢していた。男を上げるって何なのよ。そんな根拠のないものほど、信じられないものはない。伊香保はそういう性格だ。ただ、副島の頑固さは折り紙つきで、絶対に折れないだろう。自分が折れるしかなかった。  ふぅ。伊香保は頬を叩いてひとつ息を吸い、副島に言った。 「わたしはあり得ないと思ってるけど、もし白烏くんと道河原くんが通用したとしたら、それはそれで面白いわ。研究しがいがある。仕方ない……そう思うことにするわ」 「あぁ、お前が真剣に考えてくれてんのはありがたい。堪忍な。今日だけ俺のわがまま飲んでくれ」  二人して照れるように笑い、橋じいのもとへオーダー表を持っていった。
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