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─── 一回表
初戦以来となる犬走が打席に入る。今までの試合とは比べ物にならない歓声や応援を囃す音がグラウンドの中に集まってくる。
滋賀学院はしっかりと甲賀を研究していた。犬走がすとんとバットを下ろすと、一塁手、三塁手がするすると前へ出てくる。超前進守備。
東雲家による手術を受け、奇跡的に出場しているとはいえ、足の状態は5割が良いところである。『風犬』は使えない。いくら俊足とはいえ、転がすだけではセーフにはなるまい。
「さすが強豪さんだな」
ぼそりと犬走が呟く。聞こえた捕手が犬走を見上げると、犬走は下ろしていたバットを上げた。とん、と軽く肩に乗せ、バッティングのお手本のような構えを見せた。
「お手並み拝見いたす」
犬走は微笑みながら捕手に目線を向けた。
超前進守備を敷いていた三塁手の西川航大は、犬走が構えたのを見て、捕手とベンチを確認した。この滋賀学院という名門で四番を張る西川だが、守備の評価も高い。
捕手もベンチの監督も両手を平にして、抑えるようなジェスチャーを送った。そのままの守備位置でステイという合図だ。
この甲賀高校、何をやってくるか分からない。西川は集中して、腰を一層低く構えた。
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