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滋賀学院ピッチャーの川原真吾は、この構えを見てなお冷静だった。
試合開始前に甲賀のスターティングメンバーを見たときは驚きを隠せなかった。皆で甲賀の試合を確認したとき、初戦で犬走という選手は両足のアキレス腱を断裂していた。かなりの俊足だが、この夏はもう出られまい。可哀想にと思ったものだ。
「この一番出るのか……」
故に、川原をはじめ滋賀学院の皆がスタメンに記された名を見て驚いた。
出るならば、あの異常な足は驚異だ。ただ、しっかり対策してランナーとして出さなければ良い。その対策はしてきた。足が万全の訳もないだろうし、アウトにできると確信していた。
それに対して、ヒッティングに切り替えたのだろう。だが、そうはいかない。付け焼き刃のヒッティングで打てるほど野球は甘くない。それを教えてやる。
ゆっくりと肩を回し、筋肉をほぐしながらスタンドを見渡す。スカイブルーのユニフォームを纏った小さな集団が目に入った。遠江高校のユニフォームだ。こんなところで負けるわけにはいかない。見ていろ、遠江。
川原がゆったりとワインドアップをとる。グローブをはめた右手が高く天を指すように上がる。ゆっくり流れるように体重が左足から右足に移動していく。右足に体重移動するのと同時に天をかざした右手が下へ、代わりにボールを持った左手が背中から回ってくる。無駄がない芸術とも言える投球フォームだ。
美しい。思わず打席の犬走は川原のフォームにみとれた。
ストライイイイク!
気付いた時には捕手のミットにボールが収まっていた。
「うーん、こりゃなかなか……」
犬走は顎をぽりぽりと掻いた。
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