14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

12/89
前へ
/531ページ
次へ
 流れる水のようだ。  犬走も甲賀のベンチ全員も、マウンド上の川原の投球フォームをそう感じた。あまりにも滑らかで美しい。藤田の投球フォームも滑らかだが、川原のそれは一つか二つ先をいっている感覚がある。  犬走はせっかく構えたバットを振る間もなく追い込まれていた。なるほど、滋賀学院が超前進守備を解かないのは、俺の生半可なスイングではまだ当てられないと確信しているということだ。結局は仕方なく、コツンと当てるしかない。そのために超前進守備を解かないのだろう。  図星すぎて笑えてしまう。ただ、試合は一打席で終わらない。この後の三打席のために、ここは振ってくる可能性があると布石を打つべきだ。犬走は当たらずとも綺麗なスイングを印象づけようと更にグリップを握った。  三球目は外角に外して、迎えた四球目。  決め球は内角へすっと沈むスクリューボールだった。空振りでも良しと思って、犬走は今できる限りの藤田に近いスイングを見せた。  三塁手の西川が、おっ! っと少し後ずさった。思ったよりずっと綺麗なスイングだったからだ。だが結局、犬走のバットから快音は響かず、犬走は三振となった。  それでも、犬走はもしかしたらスイングして打つこともできる選手なのかも……という小さな迷いを生じさせた。この布石を必ずどこかで活かせるように。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加