280人が本棚に入れています
本棚に追加
「見てったが良いかもですよ」
打席に向かう桐葉に月掛が声を掛ける。
「ああ」
クールやなぁ。打ってまうんちゃうやろか。月掛がそう思って桐葉の打席を見つめたが、桐葉は打席でピクリともせず、あっさりと三球三振に倒れた。ズッコケそうになった月掛のもとへさらりと帰ってきた桐葉は、一言。
「確かに高度な間で勝負するピッチャーだ。慣れれば打てる」
そう言って颯爽とショートの守備位置へ去っていった。
「……高度な間ねぇ。確かに。あれが伊香保さんが言ってた全国屈指の投球術ってやつですか?」
グローブをはめながら、伊香保に訊ねた。
「うん、プロでもスピードはそれほどなのにずっと活躍できる選手がいる。それが投球術。川原っていうピッチャーは高校生だけど、それを熟知してるわ」
「なるほどね。やから、最初は見ても良いって言うたんすね」
「そ。その投球術と決め球のスクリューに下手に手を出さなければ、みんななら打てるかもしれないと思って。口で伝えるのは難しかったの」
実は試合前、伊香保から一回り目はよっぽど失投でない限り、三振でも良いから見ていった方が良いという作戦が提案されていた。
川原は得意のスクリューボールを織り交ぜながら、早いカウントで打たせてとるピッチャーなのだ。術中にはまってポンポン初球から打つと、結局最後までタイミングが合わないかもしれない。
それに……。伊香保はデータを見て勘繰っていた。全ての試合が100球ほどで終わっている。この川原という好投手、スタミナに糸口があるのではないか。
最初のコメントを投稿しよう!