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甲賀は続く2回、3回といずれも三者凡退に倒れた。考えによっては9回しかないうちの3回を棒に振るのは賭けとも言える。
それでも甲賀は安心して、2回、3回とじっくり川原のボールを見た。川原のゆったりしたフォームからの速球、足元に沈むスクリューボール。球の出どころが見えにくいテイクバック。それらはこの3回である程度把握できた。
「なんか、じっくり見られとる。嫌なチームやわ」
ベンチで川原はタオルで汗を拭いながら、誰へともなく呟いた。相手のピッチャーがマウンドに上がるとスタンドから歓声が聞こえた。川原は苛立つようにポカリスエットを煽った。
「川原、苛立つな。冷静なんがお前のええとこやねんから」
川野辺真。滋賀学院のセンターを守る三番打者が川原の隣に座って、川原をなだめた。滋賀県屈指のヒットメーカーだ。
「あぁ、すまん。目の前であんなん見せられるとな。川野辺でも打てんか?」
「……あぁ、桁違いや」
そう。
甲賀がじっくりと3回まで川原の投球をじっくり見られたのには、訳がある。
今、マウンドからとんでもないボールを投げ込んでいる白烏結人のピッチングが圧巻であるからだ。
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