14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

15/89
前へ
/531ページ
次へ
 甲賀は続く2回、3回といずれも三者凡退に倒れた。考えによっては9回しかないうちの3回を棒に振るのは賭けとも言える。  それでも甲賀は安心して、2回、3回とじっくり川原のボールを見た。川原のゆったりしたフォームからの速球、足元に沈むスクリューボール。球の出どころが見えにくいテイクバック。それらはこの3回である程度把握できた。 「なんか、じっくり見られとる。嫌なチームやわ」  ベンチで川原はタオルで汗を拭いながら、誰へともなく呟いた。相手のピッチャーがマウンドに上がるとスタンドから歓声が聞こえた。川原は苛立つようにポカリスエットを煽った。 「川原、苛立つな。冷静なんがお前のええとこやねんから」  川野辺真(かわのべまこと)。滋賀学院のセンターを守る三番打者が川原の隣に座って、川原をなだめた。滋賀県屈指のヒットメーカーだ。 「あぁ、すまん。目の前であんなん見せられるとな。川野辺でも打てんか?」 「……あぁ、桁違いや」  そう。  甲賀がじっくりと3回まで川原の投球をじっくり見られたのには、訳がある。  今、マウンドからとんでもないボールを投げ込んでいる白烏結人のピッチングが圧巻であるからだ。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加