14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 白烏は快調にとばす。ストレートだけではない。打者の背中に当たるのではないかという角度で放られたボールは、強力な磁石に引き寄せられるかのように急に曲がり、ホームベースを横切って外角へ決まる。この日はスライダーも超一級品だ。ストライクだが、とても打てる代物ではない。 「……1点勝負やな」  白烏の前に七番八番と連続三振を喫したのを見届け、滋賀学院の監督が確認するように言った。川原がその言葉を聞き、自分に言い聞かせるように頷く。  打席では九番バッターが明らかに振り遅れてすでに追い込まれていた。川原と滋賀学院の監督はふと、同時にベンチの後方を見やった。ベンチの後方にはぽつんと背番号18が座っている。頭からタオルをかぶり、じっと動かない。もし、先に点を取られることがあれば……。監督も川原も同じ思いでその背番号18を見つめていた。  ストライクッ! バッターアウト!  マウンド上で白烏が派手に拳を握った。スピードガン表示が出ないが、おそらく白烏が投げるストレートは150kmをゆうに超えている。スタンドからメガホンを叩く音が空高くまで鳴り響いた。  甲賀、滋賀学院ともに3回まで三者凡退。勝負はお互い二巡目に入っていく4回から動き始める。
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