14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

22/89
前へ
/531ページ
次へ
 打席には月掛。  ちらりと滋賀学院ベンチを見ると、霧隠がふっとベンチ奥へ退いた。もうすぐ、伊賀の化け物が出てくる。月掛は肌でそれを感じていた。  一塁上でとんとんとリズムを取る犬走と目配せをする。  行きますか?  ああ、行く。  犬走が腰に手をあてている。左手の指が三本だ。三球目に走るというサインだ。  月掛はバットを短くして、マウンドの川原に向かう。この好投手から点を取るにはそうそうチャンスは訪れない。加えて、後ろには霧隠という化け物が控えている。先に点を取らねば、何が起こるか分からない。  この回、犬走に二盗を成功してもらう。三盗は、おそらく滋賀学院の守りと万全でない犬走の足では無理だろう。自分で三塁に犬走を進める。そして、桐葉が犬走を本塁へ返す。役目は、明確だ。短く持ったバットに月掛は力を込める。  月掛への初球は大きく外れた。滋賀学院は犬走が走ってくると警戒していた。何度も何度も牽制球を送り、犬走を一塁に釘付けにしようとする。犬走はそれを見越して三球目に走ると決めていたのだった。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加