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悔しがる月掛と交差して、桐葉が打席に向かう。声はかけない。役目を果たせない忍者は、自分の無念を自分が一番良く分かっている。慰めなど要らない。
例によって、静かに足を大きく開き、すっと身体を沈める。バットを脇に添え、居合の構えをとる。
「こいつだ。甲賀の攻撃のキーマンは間違いなく、この居合の三番打者」
川原はロジンバッグでぽんぽんと手のひらと指先の滑りを止め、ふうぅと大きく息を吐いた。
この三番打者、桐葉刀貴は初回の打率こそ低いが、一度そのピッチャーの球を見ると、そこからは打ちまくる。とても信じられないが、片手で居合斬りのようにバットを振り、単打から大きい打球まで打てる。
完全に間を見切った時は、こちらはもっと信じがたいが、宙でくるりと回り、回転しながら片手でスタンドまでボールを運ぶ。ここまで四試合、この技を出した時は全てホームランになっているのだ。
この三番打者を抑えれば、俺たちは遠江へ届く。そして今年こそ、甲子園だ。川原は白球を強く握った。
桐葉は初回の打席を思い返していた。
この川原というピッチャー。今までで一番間を合わせるのが難しい。もちろん、スピードも変化球も素晴らしいが、一球ごと投げるモーションの速度が違うのだ。
だが、一度見て打てねば、もし戦に例えればその際は死と等しい。桐葉家に生まれし者、二度目は、必ず斬る。
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