14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 実は、桐葉に打たれないようにするのは簡単だ。桐葉は突出した能力があるとはいえ、あくまでも片手だ。タイミングを外されると、両手よりも修正は利きにくい。実際、ここまで四試合でもタイミングを狂わされ、打ち取られる打席が僅かながらあった。  それでも、甲賀最強と謳われる剣士である。桐葉が間の取り合いで後塵を期すことは、ほとんど無いと言っていい。  滋賀学院は甲賀の攻撃のキーマン、桐葉を徹底的にマークしていた。桐葉がここまでの21打席、初回以外で凡退したのはたったの3回。うち2回はピッチャーの交代のタイミング。残り1回は見たことのない球を打ちにいき、凡退している。  つまりは、初物に桐葉は弱いと言える。サンプルは少ないが、滋賀学院はここを突くと決めていた。  ───試合前ミーティング 「川原、この三番、まずいと思ったらお前の判断に任せるからな。ただ、くれぐれも無理はすんなよ」  滋賀学院の監督は桐葉の対策を話した後に、川原に向けてそう言った。  川原は手を組みながら頷いたが、この時はまだ本気で考えようとも思っていなかった。普段と別の投げ方をするという策だ。甲賀にそこまでする必要はない。  皆が隣に貼ってあるトーナメント表を見ていた。マジックで塗られた4本の線。滋賀学院と対等に並んだ線は、聞いたこともない甲賀高校。ただ、それよりも反対側から順当に上がってきた遠江の赤い線が、ふつふつと滋賀学院の闘志を燃やさせる。甲賀なんかに負けてる場合じゃない。  だが、こうして合いまみえると、遠江と戦えない恐怖が迫ってきた。それは白烏の覚醒が大きい。……遠江と戦えないまま終わる? 冗談じゃない。出し惜しみなどしている場合ではない。  川原はすっと、今までと違う構えかたをした。
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