14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 相撲は立ち合いで勝負を分かつと言っても過言ではない。  相撲で培った立ち合いの集中力を今は活かせているか? 昨晩、道河原は白烏と練習しながら、そう自問した。どこかで自分は野球なんて簡単だ、などとなめていなかったか?  かつて相撲で勝てなかった龍造寺謙信というライバルがいた。いつの間にか謙信は野球に転向し、甲子園を沸かせていた。謙信はどれほどの努力をしただろう。いくら野球に転向したとしても、こんな自分が謙信に勝てるだろうか? 照明に照らされながら道河原は立ち尽くし、思慮に耽っていた。 「おいっ、わざわざ夜に練習してんのにボーっと突っ立ってんなよ。ひと振りでも素振りせえよ」  一緒に練習していた白烏が異変に気付き、声を掛けた。 「……ああ、分かっとる。でもな、今の俺が1万スイングしたとて一緒や。俺は野球をなめとった。そんな奴が通じる訳ないわ。もしかしたら、お前もやったかもな、手裏剣使い」 「……なんや、その呼び方。まぁ、けど、俺もそうや。シンプルなことや。俺らは活躍しとらん。その自覚から始めんと、俺らはグラウンドに立つ資格ないで」  白烏はそう応えて、大きく伸びをうち、防球ネットに向かう。フォームを確かめるようにゆっくりと一球投げた。ボールは高く浮き、ネットの上の方に当たる。跳ね返ったボールを白烏は丁寧に拾い上げた。 「今日、何時までやるつもりや?」 「背番号1を背負う資格があると、自分で認めるまでや」 「朝までやな」 「お前こそ、心技体の心にやっと気付きおったところやろ。お前なんて試合直前までやっとれ」 「ふんっ。けど、言う通りや。俺が一番気持ちで遅れとる。朝までにはお前に追いついたる」  二人で小さく笑い合い、白烏は白球を、道河原はバットを強く握り締めた。 「んでもよ、徹夜なんかして俺ら滋賀学院に通じるんか?」 「……知らん。とにかくやるしかねえぞ」 「おお」
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