14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 打席で道河原は正面からピッチャーの川原を見た。相手の方が上や。この川原ってピッチャーだけやない。一回戦から対戦してきた相手の誰もが、わしより上なんや。そんな奴らが、たった数ヶ月しか野球してない俺らに負けて、這いつくばって涙を流しとったんや。  それやのに、わしはなめてかかっとった。ここまで来れたんは桐葉やら副島、藤田たちのおかげや。わしは、野球というスポーツに、高校野球に、そして今まで戦ってきた相手校に、どんだけ失礼やったか……。  わしは昨晩でやっとそれが分かった。 「こおおぉぉぉぉい」  道河原が川原に向けて叫んだ。  来た球を打つ。ストレートだ、ど真ん中だ、そんなもんどうだっていい。打者は来た球をどう打つか、投手はどう投げて抑えるかの勝負なんや。今のわしの最大限の力で来た球に食らいついてみる。  甲賀ベンチは桐葉の凡退でいまだ沈んでいた。道河原では先制点をもぎ取るのは難しいと、心の片隅で皆が思っていた。 「頑張って欲しいけど、川原くんはたぶん変化球だけで来るわ。コントロールも良いから、難しいコースで攻めてくる。道河原くんには厳しいピッチャーね」  伊香保がそう言って、戦況を見つめる。副島だけがベンチで1人にやりと笑っていた。 「伊香保、よう見とけ。お前が知りたいことが今から起こるぞ」  そう言われて、伊香保は打席の道河原に目をやる。あれ? と気づく。大きな体躯を丸めるようにして、バットを極端に短く持っている。 「あいつも、そこの白烏も、あいつらが一番子供やったんが、少し大人になったんとちゃうか?」  副島は笑って、ネクストバッターズサークルの滝音をちらりと見る。目線に気づいた滝音が副島に向けて笑みを浮かべていた。
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