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蛇沼は一旦目を閉じ、集中した。
この霧隠、今までと違って、伊香保も全くデータを持っていない。名前からして、伊賀忍者の末裔であることも間違いないであろう。
ただ、ここはまたとないチャンスなのだ。2点目を取れば、白烏の今日の調子ならば勝ちをぐっと手繰り寄せることになる。初球から打てる球は振っていく。
道河原の意地、滝音の知性、副島のキャプテンシー、それらが繋いでくれたチャンスだ。僕で不意にするわけにはいかない。グリップを握る力に、想いも乗せた。
霧隠の投球練習は異様だった。およそ投球練習とは思えぬ山なりのボールをキャッチャーに投げる。そんな何の練習にもならない5球を投げて、霧隠はボールを握りしめた。
霧隠がセットポジションに構えた。
来る。
代わった投手の変わりっぱな。それはストライクを取りたい思いが強い。チャンスの時こそ代わった直後の初球は狙いどころだと、副島に何度も教えられてきた。蛇沼は未知の初球に集中を研ぎ澄ませていた。
霧隠が初球を今まさに投げようとした瞬間、蛇沼にアクシデントが起こった。
センターのバックスクリーンから眩い光が蛇沼の目を襲ったのである。思わず目を閉じた瞬間に、キャッチャーのミットが大きく鳴った。
……ス、ストライイィク!!
主審が迷ったようにコールした後、蛇沼は目を開き、バックスクリーンを睨みつけた。誰だ、妨害するのは?
見据えたバックスクリーンに人影はない。太陽が反射した? 空を見上げると、太陽は一塁側に昇っている。バックスクリーンに反射する角度じゃない。
何が……光ったんだ?
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