14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 主審は明らかに狼狽えていた。  キャッチャーミットが大きく鳴ったので、気付いて見下ろすと、どうやらキャッチャーがボールを掴んでいる。  見えなかった。  何かが光ったような気がした瞬間にキャッチャーミットが音をたて、仕方なくミットの位置を確認してストライクコールしたのだった。  速いとか、そんなレベルではない。  そもそもこの試合、滋賀学院が有利だろうと思っていた。たった10人という甲賀高校に対して判官贔屓とならないよう、自分を律して球場に入ったのだ。  それが、どうだ。蓋を開ければ、甲賀のピッチャーは、プロでも打てないレベルでここまでパーフェクトピッチングを続けている。攻撃に関しても、高等レベルの読み合いから先制し、今は満塁のチャンスだ。  これだけでも驚くばかりなのに、今度は滋賀学院に化け物が出てきた。  今まで野球に関わって40年。選手として、監督として、そして今、審判として、たくさんの投手を見てきた。ボールが見えなかったのは、初めてだ。  おそらく、こんな試合を裁くことは人生で二度とない。
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