14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 独特の投げ方だ。  全身を使って投げても、藤田では145kmが限界だ。それが霧隠としたら、ほぼ回転運動はしていない。右腕はグローブから出た瞬間に上へ構えられ、そこから下半身の体重移動と手だけで投げているようだ。  ストライィィィィィッ アウゥッ!!  蛇沼がガックリと打席で肩を落としている。確かに満塁のチャンスではあったが、ここは道河原がもぎ取った一点で御の字とし、切り替えるべきなのかもしれない。  驚愕の三球を投げ込んだ霧隠は、ゆっくりとマウンドを降り、背中や腰をナインに軽く叩かれながらベンチへ向かっていた。  四回表、流れは確実に甲賀へ傾いた。それをたったの三球でうっちゃられてしまった。四回裏、滋賀学院は一番から始まる。二番打者に代わった霧隠が入っている。藤田は嫌な予感を覚えていた。  ベンチに戻った蛇沼がナインにごめんと謝っていく。 「謝んなよ、ありゃ誰も打てねえ」 「切り替えていこうぜ! この試合、1-0で勝つ。守備に集中だ」  皆が蛇沼の肩を叩き、グラウンドへ飛び出していった。ゆっくりと最後尾からベンチを出ていったのは白烏と道河原だ。 「やっと打ったな」 「あとはお前が抑えるしかねえぞ」 「分かっとる」  二人がこつんと拳を合わせ、それぞれがマウンドと一塁へ小走りで向かった。
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