14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 流れは渡さねえ。投球練習の最中、白烏は滝音が捕球するごとに大きく頷き、滝音もうんうんと頷いた。今日のピッチングは最高だ。    白烏はここまで3イニング9人を完璧に抑え込んでいる。三番の川野辺以外にはろくにバットにすら触れさせていない。  150kmはゆうに超えているであろうストレートに、ブーメランのように曲がるスライダー。これがズバリとストライクコースに決まっていく。  昨晩の練習で、突貫ではあるが藤田を手本にしたフォームから自分の最も投げやすいフォームを探った。一球一球を試すように投げ方を変え、深夜3時を回ったところで、やっと力が無駄に入らないフォームを身につけた。さすがに身体が重い。それでも今は、チームの役に立てることが嬉しくてならなかった。  200球でも投げてやる。そして、打たせない。手に取ったボールにスピンをかけ、宙に飛ばした。くるるるる。落ちてきたボールを掴むと、指にしっくりときた。  ネクストバッターズサークルに霧隠が座っている。じっと白烏を観察している。その後ろには既にバットを持った川野辺と西川がベンチの最前列に陣取り、同じく白烏へ闘志の視線を送っている。 「しびれるね、滋賀学院さん」  四回裏、中盤の勝負の分かれ目となりそうなこのイニング。白烏はマウンドの土を強く踏みしめた。
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