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霧隠は自陣のベンチを見つめた。
ネクストバッターズサークルには滋賀の安打製造機こと川野辺、ベンチ前には高校通算52本塁打を誇る西川が真剣な眼差しで戦況を見つめている。二人ともバットを握り締め、頼り甲斐のある表情をしている。ベンチの奥では川原がこちらに向けて大声を送ってくれている。
霧隠は微笑した。
そのまま軽くリズムを取るような構えでバットを揺らす。初球はゆったり構えていたが、打撃スタイルを変えてきた。
何故、霧隠は微かに笑ったのか。
霧隠は実は本塁打を狙っていた。満塁のピンチを脱してすぐの同点本塁打。勢いをつけるには、それが最高の形だ。だが、白烏のボールを一球見ると、とても本塁打できるボールではないと気付いた。相手は本物中の本物だ。
どうする?
そこで霧隠はふと、自軍のベンチを見た。そこには目に力が宿る川野辺と西川がいた。俺が本塁打を打たなくとも、きっとこの二人なら俺を本塁に返してくれる。故に、霧隠は笑ったのだった。この白烏というピッチャーから点を取るには、俺一人でなくても良いのだ。
仲間がいる。
俺は滋賀学院野球部に誘ってもらって、初めて仲間という大切なものを知ったんだ。
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