280人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、下校時には少し野球部の練習を見て帰るようになった。大声を出し、泥塗れで白球を追いかける川野辺たちをかっこいいと思った。
川野辺も西川も川原も、純粋に野球が好きな素晴らしいスポーツマンだ。何も喋らない才雲が体育でわざと失敗しても、彼らは必ず「ドンマイ、ドンマイ、霧隠!」と声をかけてくれた。才雲だけではない。苛められてる生徒には3人が必ず寄り添い、解決していた。
滋賀学院の野球部は生徒の憧れであり、学校の象徴だ。中学からスカウトされた3人は、入学時からその誇りを胸に、模範となる人間であることにも意識を置いていた。
おそらくは才雲だけでなく、皆が川野辺たちの野球部が甲子園に行くことを心から願っていた。
迎えた2年生の夏。
「今年こそ甲子園に皆を連れていく。約束する。みんな、応援頼む!」
川原が教壇に立って皆に宣言した。
「おお! 頑張れ川原!」
「川原くん、絶対行けるよ!」
「打倒、遠江!」
クラス中が川原を激励した。
「頑張れ」
誰にも聞こえないように、それでも才雲はぽつりと声に出した。
遠江との決勝戦。2年生ながら主力に成長した川野辺、西川、川原が奮闘する。才雲たちは声を枯らすほどに応援した。
だが、遠江の同じ2年生、大野がそこに立ちはだかった。
あと一歩で滋賀学院はまた甲子園に届かなかった。土まみれのピンストライプのユニフォームが目の前で皆、グラウンドに突っ伏している。嗚咽が混じった泣き声にスタンドの皆も泣いていた。才雲も胸の熱さを抑えることができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!