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野球部の練習を見ながら下校する毎日と、決勝の遠江戦を見て、才雲には思うところがあった。
何とか川野辺、西川、川原に甲子園の切符を掴んで欲しい。でも、このままでは、また来年あの大野の前に破れ去る。野球に興味を抱き研究するにつれ、3人の欠点が見えてきた。それを、やはり伝えたい。
川野辺たちの目は変わっていた。血の滲むような練習に耐え、最終学年こそ甲子園に行くんだという決意がひしひしと伝わった。
そんなある日、混んでいた食堂で昼ご飯を川野辺と向かい合って食べることになった。何も話さないでいると後悔する。意を決して才雲は川野辺に話しかけた。
「……あ、あのさ、川野辺」
「何だ才雲。珍しいな、お前から話しかけてきてくれるなんて」
川野辺はにこりと微笑んで、カツ丼を頬張りながら才雲の話を待ってくれた。
「俺なんかが言うことじゃないから、気を悪くするかもしれないけど……。川野辺は上手く打ててしまうのが災いして、どんなボールでも対応しにいこうとしてる。川野辺はボールをじっくり待つことで打率はもっと上がると思う」
「……」
川野辺はカツ丼を食べる手を止めた。気を悪くしてしまったか。才雲はすまないと言うように頭を下げた。
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