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「ごめん、でしゃばった」
「いや、俺らには後がない。何でも気になることは言ってくれ。気にするな」
川野辺の目は真剣だ。ちょいちょいと指で招くような仕草をし、言いたいことは全部吐き出せと合図してくれている。
「ありがとう。そしたら、図に乗るようで申し訳ないけど、西川にも伝えて欲しいんだ。西川は充分なパワーとスイングスピードがある。もうワンテンポだけボールを引き付けても良いはずだ。それで外角に沈む変化球にも対応できる。それに、川原。川原はスピードもスライダーのキレも素晴らしい。でも、その分、力勝負になってしまう。三振を狙うか力でねじ伏せるかの投球スタイルになってる。もう1つ、打ち取りやすい変化球。スクリューなんかを覚えると、川原は攻略できないピッチャーになると思う」
川野辺の動きが止まっている。さすがに……でしゃばりすぎたか。どうしても野球部に甲子園の土を踏んでもらいたい。その思いで野球を徹底的に勉強した。それで得た知識も含め、全てを滝のように喋ってしまった。
川野辺はしばらく黙り、ふっと笑った。そのままカツ丼を驚く早さで平らげ、かつんとテーブルに丼を置いた。
「才雲、お前……いつも練習見てくれてたよな。今日、部活に来い。面白い意見だ」
「い、いや、俺は……。何気なく本人や監督さんに言ってくれたら良いんだ」
大きく手を振り、それだけは勘弁と、そそくさと天ぷらうどんに向かった。
「待て、才雲」
川野辺はうどんをさっと自分の方に引っ込め、ぐいと才雲の顔の前に自分の顔を突き出した。
「才雲……俺は実は前々から思ってた。お前には何かある。とりあえず、放課後、必ず。な?」
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