14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

62/89
前へ
/531ページ
次へ
 放課後、半ば無理矢理だったが、才雲は川野辺に連れられて野球部にやってきた。 「監督、連れてきました。霧隠才雲です」  監督は才雲を見て笑った。野球部の監督であり体育教師でもある。当然、才雲のことも知っている。 「才雲、川野辺から聞いたぞ。アドバイスがあるんだって?」  監督は普段喋らない才雲と話せるだけでも何だか嬉しそうだった。 「……いや……そんな」  才雲がもじもじとしていると、西川が話に割って入ってきた。 「てか、川野辺から聞いたわ。的確なアドバイスだ。才雲、お前、野球やってたのか?」 「ううん、やってない」  監督と川野辺たちが目を合わせた。目で何かを合図し合うと、西川は嬉々とした表情で話し始めた。 「才雲、お前さ、全然喋んないけど、実は野球好きなのか? 俺ら野球部は甲子園目指してるけど、初心者も大歓迎やぞ? 何もせず高校生活終えるよりさ、俺らと野球やってみねえか? 練習きっついけど、その後に飲む水は神の領域なんだぜ?」  ああ、なんて眩しくて熱くて人間臭いのだろう。そんな眩しい世界に憧れる。だから、才雲は心からこの川野辺たちを応援するのだ。  そこに、ずいっと監督がまた割って入った。何度も甲子園に導いた名将なのに、監督はひとつの嫌味もなく、体育教師としても素晴らしい人物だ。 「そうだ。下手でもいい。野球が好きなら、やってみたらどうだ? やらずの後悔より、やっての後悔の方が気持ち良いぞ? それに……」 「……それに?」  そう聞き返して、才雲は少しだけ嫌な予感を覚えた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加