14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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「才雲、お前はいつも本気を出してないだろ? 先生をなめるなよ? 俺は気付いてるぞ」  そう言って監督はまた笑った。ギクリとした表情は読まれてしまっただろうか? 「俺も……。才雲、お前いつも何か隠してるやろ? 一度くらい溜めてるもの解放してみたらどうだ? 気持ち良いと思うぞ? 何だか分かんねえけど、才雲には底知れぬ力を感じる。今からでも遅くねえ。野球、やってみようぜ」  川原が監督にそう続いた。  葛藤した。  この身体能力は一体何のためにあるのかと。幼少期からずっと葛藤してきたんだ。  川野辺たちの野球部を応援して初めて、心というものは躍動するのだと知った。何とか滋賀学院に甲子園の土を踏んで欲しい。そこにもし、遠江の大野が立ち塞がるのならば、その時は少しだけ……この力を。  周りにはいつの間にか野球部の面々が集っていた。 「霧隠、見学来たんか? 入れ入れ」 「野球部入ったら彼女できんぞ」 「こら」 「打つだけ打ってみいよ」  皆が笑っている。温かな場所だ。俺の先祖もこんな場所に心を許したのではないだろうか。 「力に……なりたい」  小さな声に皆が耳を傾ける。 「皆の力に、俺はなりたい」  この言葉にはさすがに野球部全員が苦笑した。初心者が力になれるほど、野球は甘くない。それでも、控えも含めて全員野球がモットーの滋賀学院野球部だ。皆が肩を抱いて才雲を迎え入れた。
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