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「とりあえず、鬱憤晴らしとして打ってみろよ。トスすっから。良いでしょ、監督?」
川原がボールを2つ拾い上げて、監督に訊ねた。
「ああ、良いぞ。練習はキツいが、まずは楽しむことだ。思いきり空振りするのも気持ち良いもんだぞ」
才雲は軽いバットを渡され、グッと握りしめた。このバットには温度が宿っている。俺のこの力を使う場所は、ここなんじゃないか。才雲は思う。決して間違っていないはずだ。
軽く、川原がトスをした。
止まっているように見えた。
力を最大限にボールに伝えるには、こう振るのだ。頭で理解している理論を身体に伝える。
血が滾る。
筋肉が踊る。
足の付け根から沸き上がる力が、指先からバットにまで伝わった。
キイイイイィィィィィン!!!!
才雲のバットが捕らえたボールは、きらり輝く太陽と重なり、皆が目を眩ませた直後に防球ネットの最上段に突き刺さった。
「……嘘だろ……? トスバッティングだぞ?」
一瞬の静寂。直後、太い声たちが地鳴りのように響いた。
「才雲、何なんだ、お前!」
「すげえ、すっげえ!」
もみくちゃにされる才雲。こんなに人の体温が温かいとは、知らなかった。
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