14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

64/89
前へ
/531ページ
次へ
「とりあえず、鬱憤晴らしとして打ってみろよ。トスすっから。良いでしょ、監督?」  川原がボールを2つ拾い上げて、監督に訊ねた。 「ああ、良いぞ。練習はキツいが、まずは楽しむことだ。思いきり空振りするのも気持ち良いもんだぞ」  才雲は軽いバットを渡され、グッと握りしめた。このバットには温度が宿っている。俺のこの力を使う場所は、ここなんじゃないか。才雲は思う。決して間違っていないはずだ。  軽く、川原がトスをした。  止まっているように見えた。  力を最大限にボールに伝えるには、こう振るのだ。頭で理解している理論を身体に伝える。  血が滾る。  筋肉が踊る。  足の付け根から沸き上がる力が、指先からバットにまで伝わった。  キイイイイィィィィィン!!!!  才雲のバットが捕らえたボールは、きらり輝く太陽と重なり、皆が目を眩ませた直後に防球ネットの最上段に突き刺さった。 「……嘘だろ……? トスバッティングだぞ?」  一瞬の静寂。直後、太い声たちが地鳴りのように響いた。 「才雲、何なんだ、お前!」 「すげえ、すっげえ!」  もみくちゃにされる才雲。こんなに人の体温が温かいとは、知らなかった。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加