14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 監督もさすがに驚きを隠しきれないでいた。この霧隠才雲、体育の授業中にずっと違和感を感じていた。全力を出しているような演技をしているのが分かっていた。何か事情があるのだろう、それくらいにしか気に留めていなかったが、いやはや参った。 「才雲、お前ちょっと投げてみろ」  監督がミットを拾い上げ、自ら大きく構えた。 「……先生、面は……?」  才雲がキャッチャーマスクを促す。 「そんなもん……」  要らんと言いかけたが、監督は本能が警戒するのを感じ、そそくさとマスクをはめた。爪先に力を入れ、ミットを広げて待つ。  才雲のそれは、およそピッチャーとは言い難い素人丸出しの投げ方であった。投げる瞬間に何かが光り、気がついたら空を仰いでいた。キャッチャーマスクが転がっている。嘘だろ? 監督は空に向かって呆れ笑いをし、呟いた。  かくして、霧隠才雲の滋賀学院野球部への入部が決まった。
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