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───マウンドに仁王立ちする白烏は、打たせてなるものかという気を纏い、霧隠才雲を見下ろしていた。
紛れもない本物。こうして本物と合いまみえる機会を持てたことを才雲は感謝した。
野球をやって良かった。心からそう思う。そして、誇り高き仲間を持てたこと。生きていることを今、実感できる。
本塁打は要らない。出塁すれば、必ず川野辺と西川が俺を本塁に返してくれる。それが、滋賀学院野球部だ。ひと握りだけ、才雲はバットを短く持った。
む。滝音は霧隠がバットを短く持ったのを確認して、慌ててサインを変えた。ストレートに絞ってきた。結人の今日のストレートは打たれない。だが、念には念をだ。ストレートのサインからスライダーに変え、外角に逃げるボールを要求した。
分かったぜ、鏡水。本音はこいつとはストレート勝負したい。でも、俺らが勝つ。そのためにはこの霧隠を抑えなければ。大きく首を縦に振り、背中に隠して握るボールをスライダーの握りに変えた。
大きく振りかぶる。まだ2球目だが、このボールで勝負がつく。白烏はそう感じた。
グリップを強く握る。まだ2球目だが、このボールが勝負を分かつ。才雲もまた、そう感じていた。
内角をえぐるように投じられたボールが、鏡で反射したように角度を変える。一気に才雲から離れて外角へ向かう。
「見事なり」
才雲のバットが追う。そこからもまた鋭く曲がっていく。
『霧隠流、血身」
キイイイィィィン!!
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