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白烏が才雲を目で牽制しながら、それでも大きく腕を回した。
才雲は走ろうとしたが、止めた。川野辺があんなにワクワクした表情を見せるなんて。ここでスタートを切るのは野暮だ。それに、この一球は……。
唸りをあげるストレートが高めを襲う。川野辺がバットを合わせにいく。
捕らえた! そう思った0.03秒の間、最後の最後に白烏のストレートが、あがくようにもうひと伸びした。
チッという音が鳴り、打球がバックネットに突き刺さる。川野辺はバットを確認した。だいぶ上っ面に当たりやがった。なんてピッチャーだ。
「川野辺ぇ!」
ベンチから怒鳴るような声が響く。少し呆れ笑いの監督がサインを送る。川野辺はペコリと頭を下げた。
しまった。俺としたことが。勝負に夢中になってしまった。川野辺は才雲にも目線ですまないと謝った。
監督からは才雲を走らせるサインが出ていたのだ。当然だ。才雲の足なら二盗は間違いない。次のボールで才雲にスコアリングポジションまで進んでもらう。
お前とは、その次でまた勝負だ。仁王立ちする白烏の姿を一目見て、川野辺は小さく身体の緊張をほどいた。
滝音はその仕草に反応していた。
肩の力を抜いた。ランナー走らせてくるな。
バレバレでも成功させられるという滋賀学院の作戦に滝音は燃えた。
刺してやる。霧隠、次は結人とではなく、俺との勝負だ。
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