14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

74/89
前へ
/531ページ
次へ
 少し集中力に欠ける月掛だからであろうか。月掛は川野辺がボールを捕らえる直前に横目で才雲のスタートを確認した。  しめた。  同時に飛び上がる。  川野辺の打球はライトへ一直線に向かった。しかも、この川野辺、高等技術で、打球にドライブ回転をかけている。  ライト前だ。川野辺も才雲もそう確信していた。  が、二人は甲賀の二塁手の存在を忘れていた。そう、今まさに天高く舞う月掛充の存在を。  才雲が空気の乱れを感じとり、急停止した。見ると、月掛が飛んでいる。いったい何メートル飛んでいるのだ。三塁に到達しようとしていた身体を反転させ、二塁へ急いで戻る。   空中で月掛が川野辺の打球を掴んだ。甲賀ナインが拳を握る。月掛は空から二塁を見た。冷静に桐葉は二塁ベースに入っている。信じられないスピードで戻ろうとしている才雲が見えたが、間に合うと確信した。これでダブルプレー、チェンジだ。これはでかいぜ。  川野辺は全力で一塁に走っていた。この二塁手の跳躍力を忘れていた。だが、おチビさん。申し訳ないが、その身体で、しかも空中の踏ん張りが利かない上体では、俺の打球の方が上だ。  え?  月掛は小さく声を上げた。  空中で誰かがグローブを押したのだ。身体が仰け反る。大きく反った身体ごと、頭も後ろにもっていかれる。横目にグローブの中が見えた。まるで生き物のようにグローブの中でボールが回転している。誰かに押されたのではない。この打球が押したのだ。そう気付いた時にはボールは月掛のグローブから、急発進したバイクの如く逃げ出した。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加