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ボールがこぼれ、グラウンドにぽとりと落ちた。道河原がフォローし、またもや方向を変えて三塁へ走った才雲を刺そうとしたが、既に才雲は三塁へ到達した。
白烏の浮き上がるかのようなストレートに、川野辺の芸術的なバッティング。常人ではあり得ない月掛の跳躍力と、それを弾き飛ばす川野辺のこちらも常人離れした打球の強さ。攻守が目まぐるしく変わっていく展開に観客は息を飲んでいた。
ワンアウト一、三塁。
ここで打席には滋賀学院四番の西川が向かう。西川は太陽にバットをかざし、ひと振り大きく振り回した。
俺に川野辺のバッティング技術はない。才雲のような神を思わせる運動能力だって、もちろん持ち得ていない。ただ、俺には四番のプライドと意地がある。滋賀学院の四番がここでランナーを返せずして、何が四番か。
次から次に……。
白烏は汗を拭った。この四番、最初の打席と雰囲気が違う。得点圏にランナーを背負ったら、使命感が湧くってところか。
最高だな、滋賀学院。心の底を震えさせてくれる。さあ、いこうか鏡水。さすがに３連打はさせないぜ。
滝音のリードは決まっていた。内角に意識を持たせて、外角のスライダーで打ち取る。伊香保のデータには、明らかに外角へ逃げる変化球への対応がウィークポイントとあった。川野辺と違い、この西川にはその弱点がある。
川野辺のリードが大きい。いや、これはフェイクだ。少しでも西川が打てる確率を上げるために揺さぶっている。川野辺を気にする白烏に滝音はミットを大きく鳴らした。
『結人、気にするな。西川との勝負だ』
『オッケー』
「ちっ、キャッチャーもやり手だな。あんたんとこ」
川野辺が道河原に話しかけ、リードを狭く戻した。
「あいつみたいな軍師がおらんだら、俺らは自滅して終わりや。小細工は通用せんぞ」
「せやな。ほな、うちの四番に任せるとするわ」
川野辺が西川に目配せをした。今年こそ甲子園行こうぜ、西川。
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