14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 ふうぅぅぅ。  白烏は良しとも悪しともつかない顔をして、大きく息を吐いた。止められなかった。結局、味方に点を取ってもらった直後に点を取られてしまうのは、ピッチャーとして情けなくあった。一方で、スタンドインせずに良かったとも、胸を撫で下ろしていた。白烏はこの霧隠、川野辺、西川と続く打線の凄まじさに、身体の緊張が頂点に達していたのだと知った。  五番打者が打席に入る。  身体が大きい。足が太く、どっしりと構えられている。今までに対戦してきた高校の四番打者たちと比べると、一回りも二回りもスケールが大きいのが分かる。これが甲子園常連校の層の厚さか。一回戦から対戦してきた高校との格の違いをまざまざと見せつけられる。  だが、それよりも数倍、いや、それ以上に、霧隠才雲と川野辺真、西川雄太(ゆうた)はレベルが違っていた。戦うごとに右肩上がりの曲線を描いて成長していく甲賀高校野球部にとっては、この五番打者では相手にならなかった。  ストライクッ! アウトー!  成す術なく、五番打者のバットが空を切り、滋賀学院の攻撃を終えた。守備位置から一塁側ベンチへ戻る甲賀ナインと塁上にいた川野辺の目が合う。互いに認め合うように、小さく頷くような仕草をして、各々のベンチへと戻っていった。  ついに試合が動いた四回。表と裏に両校が1点ずつを取り合い、がっぷり四つとなった。大勢の観客の間では、両者五分の力関係に見えていた。ところが、バックネット裏の一部では違う見方をしている者たちがいた。プロ野球のスカウトたちであった。 「滋賀学院も甲賀もどちらも凄いな」 「ああ、素材の宝庫やな」 「このまま互角やと思うか?」 「……いや、滋賀学院やろな」 「……せやな」 「あんたは、その理由、何でや思う?」 「選手層もやし、経験値の違いもある。そら、理由は色々あるよ。けど、一番は……」 「一番は?」 「あの18番や。霧隠っていう子。あの子が出ることで滋賀学院に流れが傾いた。まだ少ししか出とらんが、攻撃でもピッチングでも試合を支配できる力がある」 「全くの同感やわ。何でおんな子を滋賀学院は今まで出さんやったんか……」  回は五回へと進んでいく。これからゲームは折り返しを迎えていく。
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