14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 皇子山球場は緊張感に満ち溢れていた。不思議なもので、球場に金属バットの高い音が響くと、球場は明るい熱狂に包まれるが、ボールがミットに収まる独特の皮の音が響き続けると、球場には緊張が生まれるのだ。  この緊張を生んでいるのは、もちろん滋賀学院の霧隠才雲と甲賀の白烏結人だ。  ストライック! アウトォ!!  ストライイィィク!! アウッ!  ストライイイィィィィク!!!  打球の音が響かない。両投手ともバットにかすらせもしないのだ。白烏と霧隠の投げ合いに、各打者のバットは無力だった。  甲賀ベンチと滋賀学院ベンチ、それに観客の誰もが、次の1点が勝負を分かつと感じていた。 「いやあ、それにしてもこれ、どっちもプロのピッチャーやわな」 「普通じゃないわ。滋賀学院の方なんてボール見えへんねんもん」  確かに、霧隠才雲のピッチングは圧巻であった。  五回、厳しいとは分かりつつも、甲賀にとってはひとつの指針ができると考えていた。桐葉とともに甲賀の打撃のキーマン、藤田に打席が回るからだ。  白烏が手も足も出ずに三振を喫し、藤田が極端にバットを短く持って打席に向かった。タイミングは打席に立つまで分からないものの、ある程度早めに始動すれば当てられると藤田は思っていた。なにせ、いくら速いとはいえ、相手の霧隠はストレートしか投げていなさそうなのだ。  藤田がストレートにタイミングを絞る。コンパクトにバットを振ろうと決めていた。が、打席に立ってまざまざと格の違いを見せつけられた。やはり、ボールが全く見えない。バッティングセンスに秀でた藤田でさえ、何もできずに三球三振に倒れたのだった。  四回表の蛇沼から始まり、五回の白烏、藤田、犬走、六回の月掛、桐葉、道河原まで、才雲が投じたボールは21球。  そう、霧隠才雲は甲賀の打者7人を全て三球三振に打ち取ったのだ。桐葉でさえ、僅かにボールが見えるだけで、反応することも許されなかった。
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