14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

83/89
前へ
/531ページ
次へ
 白烏の投げたスライダーは、才雲から見て外角高めからクッと曲がり落ちてきた。才雲の膝元ギリギリを攻めてくる。最初の対戦と比べると、僅かに力がないボールだ。  才雲のバットがしなる。同時に身体がゴムのように弧を描く。まるで川野辺のバッティングフォームのように美しい。 「あいつ、俺の打撃フォームも余裕ってことか」  川野辺が苦笑いする。その間に才雲がとらえた打球は一塁線を閃光の如く襲った。才雲は打った瞬間から犬走を上回るスピードで、一塁へ前傾姿勢をとっていた。  道河原は反応できない。  フェア!!  線審が片手を水平に上げて、ジャッジした。その横を既に才雲は通り過ぎている。 「速い、ほんまに何なんあいつ?」  桔梗がベンチから身を乗り出した。  隣で伊香保が小さく身震いした。もしかして……。まさかとは思うが、まだまだ未完成なうちの守備の穴を見抜いたとでも? 「桔梗ちゃんにはライトの守備を副島くんが徹底的に教えてた。でも、本来ピッチャーの藤田くんはライトの練習量は少ないわ。それに、みんな藤田くんのセンスを信頼して任せてしまってた。……あの時、やっぱりわたしが言わなければいけなかった」 「え、由依、何のこと? あの時って?」  桔梗が伊香保の目線を追う。そこで見た光景に思わず桔梗も声を出した。  あっ、藤田くん!!
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加