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ランニングホームランで帰ってきた才雲を滋賀学院ナインは手荒く迎えた。
「なに一人で決めちゃってんだ」
「天才過ぎるんやわ、お前」
もみくちゃにされながら、笑顔の才雲は手荒な歓迎を抜け、ベンチに腰をかけた。息が上がる。でも、仕方ない。この相手に勝つにはここで無理する必要があった。
才雲は汗を拭おうと、ベンチの背もたれにかけてあるタオルを取ろうとした。だが、全力疾走で息が途絶え途絶えとなり、うまく掴めない。
「おお、才雲、大丈夫か? タオルだな?」
隣にいたチームメイトがタオルを取ってくれた。
「おお。……はあ……はぁ……悪いな」
「無理ねえよ。ライト線抜けてのランニングホームランなんて初めて見たぜ」
「……はあ……はは。……ありがとう」
喉が渇き、紙コップを震える手で掴む。ウォータージャグのボタンを押して、スポーツドリンクを注ぐ。飲み干そうとした途端、紙コップは右手から滑り落ちていった。床にドリンクがこぼれ落ちた。足下のコンクリートが染まった。
「……お、おい。大丈夫か、才雲」
「大丈夫だ、問題ない。川野辺を応援しよう」
才雲はだらりと右手を垂らしていた。口からだらしなくよだれが垂れている。そのチームメイトが異変を察し、監督に告げようと立ち上がった。才雲はそのチームメイトの腕をしっかりと掴んだ。首をゆっくりと振り、小声で言った。
「言わないでくれ。……川野辺を応援しよう」
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