14.強豪 滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 痛恨の2点目を奪われた甲賀高校。  衝撃的なランニングホームランで勢いに乗る滋賀学院は、三番川野辺が打席に入った。飲まれそうになる空気を何とか土俵際で持ちこたえたのは、甲賀のキャプテン、副島の守備だった。  少し気落ちしていた白烏のストレートがこの試合初めて高めの甘いコースへ向かった。  完璧に川野辺がとらえる。流し打った打球はレフト線の長打コースへ飛んだ。そこへ副島は猛然と走り込んでいた。藤田の外野守備と違うのは、伊香保のデータをきちんと頭に入れていたこと。川野辺は甘い球を左右どちらかのライン際に落とすデータがあった。そして、抜かれても三塁で刺せる確証があったことだ。  結果的に副島はこの打球をダイビングキャッチで抑えた。川野辺にとってはまさかの結果だった。レフト線を抜くと決め込んで打った打球だったが、しっかり分析されていた。  ここは甲賀のキャプテンとしての意地が勝った。  だが、変わらない。  流れを引き寄せるための副島のダイビングキャッチも、才雲のリズムを崩すまでには至らなかった。  回は7回。  淡々と、敗北が忍び寄る。  誰もがしっかりと目を見開いて、ボールを見た。それでも打てない。  打席に立った滝音、副島、蛇沼は何とかしようとバットを極端に短く持ったり、セーフティバントの構えを見せたりと工夫した。それでも、3人でまたもや9球。三者三球三振に斬ってとられたのだ。  あと2イニングしかない。たったの1点差だが、2点目は遥か遠くに見えた。
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