15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 副島は緊張した面持ちの伊香保と目を合わせた。 「伊香保、どうや? 何か攻略法は?」  伊香保は涙を浮かべて首を振る。 「あんなに小さなテークバックで、あんなに速い球を放れる人なんて、たぶんいない。もし、アドバイスできるとしたら、1、2の3のタイミングでは当たらない。1、2のタイミング……いや、もっと早いタイミングで振りにいって」 「……分かった。……橋爪先生、何か、無いでしょうか」  副島がこんな円陣を組むことはない。それほど、副島も必死で藁をも掴む思いなのだ。 「そうじゃの。わしにもあのピイッチャアが高校生とはとても思えぬ。何かアドオバァイスしてあげたいのじゃが……」  橋じいも髭を撫で、困り顔でいる。 「……いえ。先生、ありがとうございます」  副島が残念そうにお辞儀する。と、橋じいが何かを思い立ったように続けた。 「……ただ、諸君。勝負というものは最後まで分からんもんじゃよ。そして、ひとつだけ。人の世は情けが必要じゃ。じゃがの、勝負には情けは不要じゃ。何か起きた時、それだけ覚えておきなさい。勝負における無情は悪ではない、と」  ?  副島も、他の皆もその言葉にピンとくる者はいなかった。橋じいも何も分からずに、ただ己の人生にて学んだことを話しただけだ。だが、これがこの9回表、最も大事な言葉となる。
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