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ボール！！！
依然として月掛にボールは見えていない。それでも、少しコントロールが狂えば、同じくボールが見えていないキャッチャーはミットにボールを収めきれないようだ。ボールがこぼれたところで主審はコールしている。主審もたぶんボールが見えていないのかもしれない。
とにかく、この2ボール0ストライクというカウントはチャンスだ。次はコントロール重視でストライクを取りに来るだろう。
月掛がじっと才雲のフォームを観察する。伊香保さんの言う通り、小さなテークバックからぴゅいと投げてくるから集中しなければならない。
初めて才雲が額の汗を拭った。大きく息を吸い込んでいる。セットポジションから、すっと才雲が三球目を投じた。
見える！ 月掛の神経と筋肉が瞬時に連動してバットを合わせた。
キイィィィン！
月掛がとらえたと確信した打球を目で追った。が、野手は誰も反応していない。野手たちは月掛や主審の後ろを見ていた。月掛も後ろを振り向くと、バックネット方向に打球が転がっている。前の回に藤田や犬走がファウルにしたものと全く同じだった。
ボールは見えた。バットの軌道も合っていた。今ので前にすら飛ばないのか……。手元でもうひと伸びしているということだろうか。
月掛は打席を外し、目を閉じた。
バッティングセンスの良い藤田や下半身に力のある犬走さんでも、前に飛ばせなかった。俺が前に飛ばせるだろうか。できないのならば、俺にできることは何だ？ 二番打者として、俺は何ができる？
月掛充は飛ぶだけじゃない。ここで俺は新しい自分を見つけなければならない。
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