15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 滋賀学院のキャッチャーはミットを一度外した。激痛が走っていたからだ。手のひらは赤く染まり、パンパンに腫れていた。  キャッチャーはふっと小さく笑った。こんなボール、一生受けることはない。あとたった三人だ。頑張れ、才雲。もう俺はボールをこぼさない。お前のボールについていくから。  自分のせいでボール判定されているかもしれない。そう感じたキャッチャーはこの後、一度もミットからボールをこぼすことはなかった。己の目と耳を研ぎ澄ませ、才雲のボールの軌道を読み、捕球していったのである。  ストライクッ!!  キャッチャーの捕球音が皇子山球場に響き渡る。これでカウントは2ボール2ストライク。  月掛はもう一度打席を外して深呼吸をした。手が出なかったが、今のボールも見えないほどではなかった。しかも、今のボールはコントロールを最重要視したボールには思えなかった。先程のファウルを警戒し、打たせまいと投げられたボールだった。そのボールが見えた。キャッチャーも捕球した。  やはり……徐々に球速が落ちている。そう確信した。ならば、やることはひとつ。それが俺の役目だ。  キイィィィン!  カイイィィン!  キャイィン!  ストライクコースのボールに月掛はしつこく何度も食らいつく。体格のハンデを乗り越えるために、月掛は諦めずに何度も何度も反復して普通の忍者ができることを習得してきた。その粘りを今ここで発揮する。  才雲は明らかに疲労の色を表に出していた。何度も汗を拭う。  打球は一度も前に飛んでいない。それでも、この才雲と月掛の勝負はじわりじわりと月掛が追い込んでいた。月掛の狙いはひとつ。粘って粘り抜いてフォアボールでの出塁だった。
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