15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 何球が投じられただろうか。既にフルカウントから何度も月掛はファウルで耐えていた。ここで月掛の粘りに業を煮やした才雲が仕掛けた。  今までよりもモーションが大きい。才雲はコントロール重視でなく、力でねじ伏せにきた。ボールが光と炎に包まれるように唸る。  バッシイィィィィィィ!!  必死に滋賀学院のキャッチャーがボールを掴む。月掛はバットを止めた。いや、手が出なかった。  キャッチャー、月掛、双方が主審のコールを待つ。  ボーーーール!!! 「っしゃあ!」  月掛はバットを置いて、うずくまるように身体を丸めながら両拳を握った。握った手を広げると、指が腫れている。ファウルにしかできなかったのに、指がここまで腫れるとは……。  後ろからゆっくりと月掛に近づいてきた者がいた。 「よくやった。任せておけ」  桐葉が珍しくそんな声をかけた。既にその体は才雲へ向かっている。 「頼んます。負けたくねえっす」 「……ああ。だから任せておけと言っている。早く一塁へ行け」  さあ、滋賀学院どうする? 才雲の表情を窺った桐葉は滋賀学院ベンチを見た。  月掛の粘りで明らかに疲れが見えている。一本もヒットを打たれていないが、川原に戻すのか、このまま才雲でいくのか。普通なら、当然まだ1人しかランナーを出していない才雲の続投だ。しかし……。  桐葉は気付いていた。才雲はスタミナがないのではない。  彼からは、僅かに血の匂いがする。
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