15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

10/46
前へ
/531ページ
次へ
 滋賀学院の監督は迷いに迷い、伝令を送った。伝令に走る三年生の尻をぽーんと叩いた。  マウンドに集まった内野陣と才雲が伝令を聞き、一斉にライトの川原を見た。ライトの川原は大きく頷いた。その大きな頷きを確認して監督はベンチをゆっくりと出た。審判に交代を告げる。  ピッチャー、才雲に代わり、再び川原。 「ええっ? 霧隠1本もヒット打たれてないのに」  スタンドからそんな声が漏れた。当然だろう。 「確かにコントロールも乱れてきた。圧倒的なスピードも少し落ちたかもしれん。ただ、川原よりこの霧隠の方が俺はまだまだ上だと思うが……」  スカウトたちも監督の采配に首を傾げていた。  だが、監督も滋賀学院ナインも気持ちは同じだ。そう批判されるかもしれないのは承知の上だ。俺ら、滋賀学院野球部しか事情を知らないのだから。  監督からの伝令はこうだった。 『才雲、お前の言ってくれた時間は、もう近づいている。俺たちには才雲と川原という二人の素晴らしいピッチャーがいる。1人だけ、ライトで最後の力のために休め。全員野球でここまでやってきたのが滋賀学院だ。相手の三番を川原、そして四番を才雲。一人一殺。二人ともが全力で二人を抑えてくれ。そして決勝へ進もう』  全員が納得する監督の采配だった。  ───時は才雲の入部時に遡る。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加