15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 西川や川原たちが二年の秋、川野辺はちょっとしたアドバイスをしてきた霧隠才雲を部活に連れてきた。一流だけが分かる何かが、やはりあったのだろうか。実は川野辺たちは、この目立たない生徒である霧隠才雲には何かあると感じていた。  その睨み通り、才雲はその場でとんでもない投球と打撃を見せ、滋賀学院野球部へ入部する。  ある日、川原は入部した日の実力を見せない才雲の胸ぐらを掴んだ。才雲は迷ったが、信頼できる仲間たちに自分のことを語り始めた。 「とても不思議な話で信じてもらえないかもしれないけど、霧隠家は代々生まれた時から心臓に大きな腫瘍を持って生まれてくるんだ。当然、俺も親父も祖父も手術を受けた。だが、切除しても一週間すると同じ箇所に腫瘍はまたできる。霧隠家はこの心臓の腫瘍とともに生きていく運命なんだ」  監督もナインも皆が静かに聞き入っていた。才雲は嘘をつくような人間ではない。 「ただ、この腫瘍があることで、霧隠家は瞬間的に常人の域を遥かに越えた血流を流すことができる。この常人の数倍を越えて行き渡る血が、全身の筋肉の能力を100%まで引き出させてくれる。普通、筋肉は20~30%くらいしか活用できていないから、俺ら霧隠家はこの腫瘍のお陰で大きな力を得られるメリットもあるんだ」  その話を聞いて、川原が訊ねた。 「なるほど……。じゃあ、その腫瘍のデメリットは何なんだ? 才雲が普段の練習で力を出さない理由はそこにあるのか?」
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