15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 誰もが声を出せなかった。そこまでしなくても良い。ただ、こんなにありがたいことはない。今年こそ必ず遠江を倒して甲子園に行く。  川野辺が才雲の目の前に歩を進めた。両手を広げ、皆に輪を作るよう呼び掛けた。 「才雲、お前の覚悟はよく分かった。理想はお前を使わずに川原のみでの全国制覇だ。な? 川原」 「おうよ!」 「もし、万が一、お前の力が必要になった時、無理はするな。な、才雲?」 「いや、無理してでも甲子園に行く。その時は俺が皆の梯子になる」  そう言って才雲は首を振った。 「ふ、強情なやつだな。いつも大人しいくせに。よし、分かった。みんな、命を賭けてこの9ヶ月、必死で頑張るぞ!」  おおぉぉぉ! 「絶対、甲子園行くぞぉ!!」  おおぉぉぉぉぉ!!!!!!  監督は何としてもこのチームを甲子園に連れていきたいと思った。こんな良いチームはない。俺の采配でこの子らを負かせることがあってはならない。  ───そして、滋賀県大会準決勝、1点リードの9回表。  滋賀学院にとって思い描いていた相手とは違う。だが、目の前の甲賀高校は最高の滋賀学院を出さねば勝てない。  滋賀学院ナイン全員が、監督のこの采配を正解だと感じていた。才雲も納得してライトのポジションへゆっくりと歩み始めた。
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