15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 川原の想いも才雲と変わらない。  サイドスローとオーバースローを併用し、間で対応する桐葉の歯車を狂わせていく。いつ肩が異変をきたしても仕方ない。川原も投手生命を賭けていた。  2ボール2ストライク。桐葉は追い込まれていた。  相手の間の中にいる。離れたり一気に近づいたり、厄介な間の取り方をされている。桐葉は月掛がそうしたように、打席を一度外し、目を閉じて考えた。  自分が斬れる間合いに相手を引きずり込まなければならない。奴の間合いを崩す。そして、追い込む。それしかないという袋小路へ追い込み、一太刀で仕留める。  桐葉独特の感覚である。普通の人間にはその感覚は理解できない。だが、体感することはできる。桐葉が仕留めるまでの太刀を見いだしたとき、空気が冬山のようにじんと冷えるのだ。  寒い。何だ、こいつ。何かやるつもりだ。川原が微かに怯んだ。ほんの少し指先が強張る。無理もない。人生で斬られると感じる経験など、誰も積む者はいない。立って向かっているだけ、川原は立派である。  打席を外していた桐葉が静かに摺り足で動き出す。  ?  誰もが目を疑った。桐葉は主審の背中を通り過ぎ、反対側の右打席に立ったのだ。 『桐葉流、逆刃斬り』
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