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この春、サイドスローを試す川原を怒鳴ったことがある。
「お前っ! 肩を大事にできん投手は大成せんぞ! 遊びでも止めろ」
そう、叱った。川原は謝らなかった。静かに首を振り、切実にこう応えた。
「監督、俺は大成なんかせんでええんです。甲子園に行きたいんす。遠江を倒したい。それさえ叶えば、俺は良いんです」
あの時、その川原を止められなかった。今は、やはり止めなければならない。川原が幾つになっても野球をやれるように。野球は楽しい、投げるのは楽しい、いつまででもそう言えるよう、川原をもう投げさせてはいけない。そして、病を抱える才雲もしかりだ。
泣きじゃくりながらベンチに戻ってきた川原の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「よくやった。ナイスピッチングだ」
マウンドにゆっくりとライトから歩いてきた才雲が登った。
「才雲、いけるか?」
西川が心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ。川原が休ませてくれた。しかもライトに打球がいかないような配球をしてくれていた。俺は必ず抑えなければいけない」
炎の中にいるような……才雲の発する熱が辺りを焦がしていた。
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