15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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「滝音くん、球威は落ちてる。粘れば必ずチャンスあるわ」  ネクストへ向かう滝音に伊香保が声をかけた。 「いや……そう簡単じゃない。結局誰も前に打球を飛ばせてないんだから。たぶん、20回やって1回打てるかどうかだ。副島もおそらく同じだ。ただ……」 「ただ?」 「霧隠を打てるとしたら、技の桐葉と、あそこにいるでかい、うちの力の四番だ。あいつが真の道河原家であれば、あいつには見えるはずだ」  伊香保はよく分からず、首を傾げた。道河原の方へ首を向ける。  道河原の口許が引き締まっている。道河原は気持ちを高ぶらせていた。この投手から打って初めて四番と胸を張って言える、と。    才雲はそっと胸に手をあてた。鼓動が大きく、速い。あと5分でいい。もってくれ。  9回表。甲賀1-2滋賀学院。  ノーアウト一、二塁。打席にはこの試合唯一の打点をあげている四番、道河原玄武。マウンドには打者14人に対して未だヒットを許していない霧隠才雲。  一塁側のスタンドからは、大きな道河原コールとメガホンの嵐が鳴った。三塁側からは霧隠コールと後押しする太鼓の音が響いていた。  太陽が空の頂点に差し掛かっていた。勝負はクライマックスへと向かっていく。
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