15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 速ぇ……。  道河原はごくりと喉を鳴らした。才雲が投じた初球は、衰えなど全く感じさせなかった。まさに光の如く、風と共に道河原の前をすり抜けた。  パッシーーン!  ストライィィィィィク!!  道河原は滝音と同じことを考えていた。少しだけ威力が落ちたように見えたボールも、結局は藤田、犬走、月掛ともに前に飛ばすことはできなかった。この才雲の投じるボールは速さだけではない。おそらく球質も重いのだ。そんなボールに対応できる可能性があるとしたら、俺か桐葉くらいしかいねえ。  だが、見えないものを打つ手段がない。桐葉なら見えるのかもしれねえが、今のボール、俺には見えなかった。  また球威が僅かに落ちるのを待つ? あと二球これを続けられたらどうする? 俺が打てなきゃ……負ける。  いや、待て。  ふと、道河原は子供の頃から散々聞かされていた父親の話を思い出していた。  そう、涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)……。そんな名前だったはずだ。
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