15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

25/46
前へ
/531ページ
次へ
 出どころだ。ボールの出どころにまず、集中する。相変わらず小さなテークバックから、才雲は二球目を放ろうとしている。  一瞬、目を閉じる。視神経を休め、そして薄く目を開ける。18.44m先に立つ才雲の右手指先に向けて目を細める。顔に近い位置に右手がすっと上がってきた。人差し指と中指がしっかり縫い目にかかっているのが見える。手が返り、親指がしっかりと見えた。来るっ!  人差し指と中指に支えられたボールが放たれると同時にカッと目を見開く。真円のはずのボールが楕円のように伸びているのが分かる。  見える、見えるぞ!  バッシイィィィィン!!  ……見えるけど、振る暇がねえじゃねえか。  ストライィィク!  道河原は立ち尽くした。どうすればいい……。もう追い込まれちまった。  もう才雲はキャッチャーからのボールを受け取っている。たった二球だが、肩を揺らしている。口を結び、耐えているのが分かる。  あいつも限界を迎えている。最後に出し尽くそうとしてやがる。覚悟の目をしてやがる。そんなこいつに、俺は勝てるのか……?
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加