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才雲は道河原に考える間を与えない。才雲は燃えるような闘志を纏いながら、静かにセットポジションに構えた。
まずい。とにかく涅槃寂静をしながら少しでも早くスイングする。それしかねえ。
道河原はバットを短く持った。既に才雲の右手が顔の横まで上がっている。意識を涅槃寂静に90%、スイングに10%割り当てる。
才雲が歯を食いしばりながら、三球目を投じた。光のような速さだが、何とか見える。だが、まだスイングまではついていけない。振ろうとしたところで、ミットにボールが収まる音が響いた。道河原は目をつむった。やってしまった……四番とあろうものが結局見逃し三振とは……。
ボーーーーール！
キャッチャーが残念そうに捕球姿勢のままうなだれている。ほんのわずかストライクゾーンより内角に寄っていた。道河原としては命拾いをした。
ふと目に入ったベンチから東雲が大きな口を開けているのが見えた。
「諦めんな！ 男だろっ！」
ちっ、誰が諦めてんだ。と、言い返したいくらいに思ったが、東雲は両手を口の横にくっつけ、続けて声を張り上げた。
「頑張れ！ 道河原、頑張れ！！」
ありがたい。頑張らねえわけにはいかねえな。道河原は自分の胸を気合いの意味で強く叩いた。そう言えば、理弁和歌山との練習試合でも、くノ一のあいつが身体張って鼓舞したんだもんな。
ふうっと息を吐き、道河原は打席の最後方に立った。俺のスイングスピードなら、あとほんの僅かな時間さえあれば、涅槃寂静をしながら振って当てることができるかもしれない。せめて打席の一番後ろに立ってもがいてやる。
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