15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 才雲は胸を押さえていた。  もうグラウンドに川原はいない。俺がこの四番、五番、六番を抑えるしかない。ちらりとブルペンを見ると、二年生ピッチャーの田村が投球練習をしている。  田村も二年生ながら良いピッチャーだ。川原の良いところを真似し、俺にも色々と聞いてくる。素直なので、これからもっともっと伸びるだろう。だが、この甲賀高校打線には、まだ田村では荷が重い。  この胸の圧迫感……。おそらく、投げられるのは良くてあと10球。力をセーブして抑えられる相手ではない。次の一球でこの四番を三振にとる。相手の四番が必死にボールを見ようとしているのが分かる。目が慣れるまでに必ず抑えねば。  忍者というカテゴリーでくくれば、おそらく甲賀の面々より才雲の方が総合力では上である。だが、その才雲でさえも、まだ免許皆伝には程遠いと言われている。それは何故か? それはまだ精神的に不安定な思春期であるからだ。心を操ることこそが免許皆伝の近道だが、この多感な時期、高校生ではやはり熱くなる時は熱くなってしまうのだ。  試合が決する9回表。抑えねばという使命感から、才雲にはほんの少しの力みが生まれていた。これが才雲にとって致命傷となる。
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