15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

28/46
前へ
/531ページ
次へ
 才雲の道河原への四球目。  道河原が寸時に目を閉じる。そっと開けると、才雲の右手が顔の位置より上にあった。テークバックを大きくしている。完全に決めにきていると感じた。だが、その分ボールの出どころは見えやすい。  才雲のボールはこの打席で一番速いボールだったが、道河原はしっかりと軌道を確認し、スイングを初めて合わせることができた。  チッ  微かに道河原のバットを掠り、打球がバックネットを激しく叩いた。よしっ、当たったぞ。掌に確かな手応えを感じた道河原と対照的に、才雲は痛恨の表情を浮かべていた。  一球ずつが惜しい。投げるごと、才雲は呼吸を乱していく。決めなければ……その意気が歯車をまた狂わせる。  この四球目以降、道河原は才雲の全力を込めたボールをことごとくファウルにしていく。明らかなボール以外は、際どいボールも全て当てていく。  チッ  キィン!  カキィィン!  カキィィィィン!  ファウルの度にタイミングも合っていく。気付けば道河原への投球は既に13球を数えていた。才雲が自分の限界が来ると覚悟していた球数を既に越えていた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加